カボチャの馬車は、途中下車不可!?

——あの人の記憶力はコンピューター並みですから。もう真杉さんの名前も会社名も所属部署も、ちゃんと覚えてくれてますよ。プレゼン、楽しみにしてます。


樋口さんの声に送られながらビルを出ると、ぽつりぽつり、雨が降り出していた。

カバンから折り畳み傘を取り出しながら、その手がまだ微かに震えてることに気づいてギョッとした。
こんな緊張感は、新人の時以来かもしれない。


さすが……地獄のオニガワラ。

一筋縄じゃ、いきそうにない。
プレゼンでも、相当厳しい突っ込みが来るだろうな。


でも。
あの人を納得させることができなければ、帝電に勝てないんだもの。
だったらやるしかない。

絶対この仕事を決めて、部長に喜んでもらいたい。
期待に応えたい——

手の中の傘を、きつく握り締める。

そう。それはつまり……もっと集中しなきゃいけない、他のことに気を取られてる暇なんてないってこと。

自分に言い聞かせるように口の中でつぶやいて。


私を揺さぶり続ける美貌の面影を払いのけるように、一気に傘を押し広げた。
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