カボチャの馬車は、途中下車不可!?

売れ残りのおもちゃみたいに統一感に欠けるそれらの中の一つ、YKDビルディングに、私が働く広告代理店YKD東京本社はある。

このビルには、うちのほかにCMや広告の制作会社、デザイン事務所といった関連子会社も入っていて、常時数百人規模の社員が働いてる。
つまり出勤時間帯のセキュリティゲートなんて、ラッシュ時の改札並み混雑を覚悟しなきゃならない。


自動ドアを抜けて巨大な吹き抜けスペースに入ると、ゲート前、もう人の列ができてる。

ふぅっと息を吐いて憂鬱な気分を払い、そちらに足を向けた私は、「総合受付」と書かれたカウンターの向こうに見知った顔を見つけた。

「おはよう香織ちゃん」

「おはようございます、真杉さん」
ユニフォームであるクリーム色のスーツを着た南香織(みなみかおり)ちゃんが、丁寧に頭をさげてくれる。

いつもならそのまま通り過ぎてしまうんだけど。
もの言いたげについてくる彼女の視線に気づいて、速度を緩めた。

手……キラッて何かが光ってる……?

あっ!

小さく叫んで、駆け寄っちゃった。
だって、光のモトは左の薬指だ!
「香織ちゃん、それってもしかして……」

もじもじしながら、でもうれしそうに彼女は頷く。
「はいっ。あの、実は昨日、私の誕生日だったんですけど……プロポーズされたんですっ」
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