カボチャの馬車は、途中下車不可!?

ちょっと自分で自分が信じられない。
どっちかっていうと、恋愛には淡泊だったはずなのにな。
彼より仕事を優先させた結果浮気されたことが、元カレと別れた原因だったくらいだし。

こんなに……何も手につかなくなるくらい一人を思い出すなんて、人生初で。
それだけ彼の存在が、強烈だったってことなんだろうけど——


「飛鳥さーんっ! おはよーございます!」

気だるさを払拭するようなハイテンションボイスが追いかけてきて、私は振り向いた。
「ラムちゃん、おはよう」

「見てください見てください! これこれ! ついに、ついにゲットですよ! ミラちゃんの限定キーホルダー!」

この声、寝不足の頭には少しキツいかも……。
チラッと思ったものの無視するわけにもいかなくて、彼女が自慢げに振るそれへ目をやった。
なんだろう、なんかマスコットがくっついてる。えーと……

「これ……馬?」

たちまち、ラムちゃんが「むぅ」って眉を寄せた。
「違いますよぉ、ミラちゃんはユニコーンです!!」

なるほど、そういわれれば……頭に角がある。

「もう、これゲットするの、ちょーーー大変だったんですよ? 寝袋持って、夜中から並んだんですから!」
そして、それがどれほど苦難に満ちた時間だったかを、滔々と語り始める。

彼女が筋金入りのオルオタ(「オルレアンの唄」というアニメをこよなく愛するオタクのことらしい)だってことは、もう有名だけど。
この勢いだと、お給料ほぼ全部、関連グッズとイベントにつぎ込んでるんじゃないだろうか。
お節介とは思いつつ、実家のお母さんのようにちょっと心配になってしまう。

「それでー……あのぅ、来月は斗真様の握手会があるんで、お休みいただきたいんですけどっ!」

斗真——藤波斗真(ふじなみとうま)。彼女が何度となく口にするから覚えてしまった。
大人気声優で、ラムちゃんの王子様よね。

「早めに課長に言っとけば大丈夫じゃない?」
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