カボチャの馬車は、途中下車不可!?
5. 王子、再び

週明け、月曜日。
新宿駅。

改札を抜けた私は、黙々と歩く大量の人に紛れ込んだ。
熟睡できなかったせいか、おそろしく頭が痛い。
薬飲んだ方がいいかな……

いつもはうんざりしてしまう通勤ラッシュだけど、今日ばかりはかえってうれしい。
足を機械的に前に出して、流されていけばいいんだもの。
ぼんやりした頭でそんなことを思いながら、
まるで奔流に押し出される小魚のように、ふらふらと先へ進んでいく。


月曜日がきて、ホッとしていた。
それくらい、長く感じた週末だったから。

いつもなら、予定がない土日なんて考えられなくて。
約束がなくても、とりあえず街に出かけるのが当たり前で。

カフェに座って、ビルの壁面広告や看板、街角の大型ヴィジョン。
それを見る人たちの年齢層、もらす感想……そんなものをチェックしてるだけでおもしろかったから。
まぁ、ほとんど職業病だってことは、自覚してるけど。

でもこの週末は、それもできなかった。
ていうか、何もできなかった。
何も手につかなくて、結局ダラダラ家にこもってた。

理由は……わかってる。
あの、王子様だ。

吸い込まれそうな瞳の、美貌の人。

微笑みも、まなざしも、言葉も、唇も。
すべてが私の中に残っていて。
デコルテに散った彼の名残を鏡で見るたび、気持ちがざわついた。

そして、逃げ出さなかったらどうなっていたんだろう、なんて考えてる自分に、びっくりした。
< 88 / 554 >

この作品をシェア

pagetop