カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「ひゃっ……」
ちちち、近いっ……!
それこそ、唇が触れそうなくらい。
頭がクラクラしてしまうのは、むせかえるようなバラの香りのせいなのか、それとも——
「見事だね」
「っ、え……?」
「散々焦らしてからあっさり姿を消す。僕は悶々と、夜が明けるのを待つしかない。残されたガラスの靴を抱いて、君を想いながら」
鈍くなっていた脳に、彼の言葉がゆっくり染み込んでいく。
その意味するところをやっと理解して、私はさぁって青ざめた。
な……なんか彼、恐ろしい勘違いをしてるような気がする。
「べべ別に、これはわざと落としたわけじゃっ」
「こんな見事にやられたのは、初めてだ」
かぶせるように、彼が言葉をつなぐ。
翡翠色の瞳が意味深に煌いて、私を見つめた。
「認めるよ。ファーストピリオドは、君の作戦勝ちだ。でも次は……」
ふいに、その双眸が強い光を放つ。
それはまるで獲物を捕らえる間際の肉食動物のような、鋭さを帯びていて。
ひたと見据えられた私は、身動きもできなくなってしまう。
そして耳元へ、密やかな睦言が注がれる——
「僕が攻めるからね。覚悟しておいた方がいいよ?」
優雅に、けれど抗うことを許さない力強さで私の顎をつかむと、彼はゆっくりと顔を傾け、頬に唇を押し当てた。
チュ……ッ
わざとらしく音をたてた唇が、離れていく。