悪しき令嬢の名を冠する者
 では何故そんな彼が〝悪の貴族〟と呼ばれるのか。答えは簡単。彼が用いたのが〝詭弁〟だからだ。

 都合のいい事柄を並べただけで、紙の上での誓約をも結ばせた彼は、一歩間違えば戦を起こしかねなかった。

 しかし、彼はそんな危機を匂わせず、やってのけたのだ。どれ程の頭脳と腹黒さを持ち合わせれば出来たのだろう。

 それがまことしやかに囁かれ、巡り、彼の二つ名を定めた。

 侯爵様自身は、それすらも楽しんでいるようだが、政を為す人々には危険人物として認識されていた。



 ――いつか国を裏切るのでは?



 そんな疑念のもと、未だ国に貢献しているのだから、本当に恐ろしい人だ。フィンは、そんな彼が裏切らないよう監視役を買って出ていた。

 詭弁を用い、他国に亡命するなんてことを成功させそうな人だ。既に他国のスパイに成り下がっているかもしれない。

 僕達が反旗を翻した時に、どう動くか一番考えが読めない人物だった。
< 211 / 374 >

この作品をシェア

pagetop