悪しき令嬢の名を冠する者
 彼女はただの少女だった。姫の肩書を持つただの女の子。その立場にさえなければ、あんな死に方はしなかっただろう。僕は未だに己の行動を悔いている。

 蜂起が決まってすぐ。最後の卸作業で僕は彼女へ忠告した。レジスタンスが攻めてくるから逃げた方がいい、と。しかし彼女は笑って、こう言ったのだ。



 ――私は民を信じているわ、と。



 泥だらけのドレスで花を慈しむ彼女は美しくて、心根は純白だった。

 城を落とした人間が誰か一人でも〝本当の彼女〟を見つけられていたのなら……そう願わずにはいられない。

 しかし、彼女の想いも知らない彼らは汚らわしい靴で城を踏み躙り、逃げ惑う彼女を追い立て死に追いやった。

 止めを刺したのは僕の父。運命とは皮肉なものだ。大切な人が大切な人の命を奪ったのだから。
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