悪しき令嬢の名を冠する者
 魅了され、感化され、共有して。僕はいつしか恋に落ちていた。愛するという想いが芽生えるほど、心を傾けていたのだ。

 異性と触れ合う機会が極端に少なかったせいかもしれない。彼女の優しさに勘違いしただけかもしれない。それでも疼く想いを持て余すほどには虜になっていた。

 お忍びで僕の店を訪れた彼女が子供に花を与えたのは、そんな時。リーリエ様は僕があげた花束から一輪抜き取り、少女に手渡した。

 一部始終を見ていた僕は知っている。彼女には悪意などなかったことを。それでも周りは、そう見てくれない。

 レジスタンスのリーダーだった父は、それを眺め嘘を吹聴した。



 ――姫は悪だ、と。
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