悪しき令嬢の名を冠する者
「死んでしまうわ……貴方が死んでどうするのよ……やめて! もういいわ! 私達の負けでいいからヴィンスを殺さないで! お父様!」

「うるさいなぁ」

 苛立つ声が金属音に混じる。次の瞬間。ヴィンスの攻撃をいなした父が私の方へ向かってきた。



「キーキーうっさいんだよ。せっかく楽しんでんのにさぁ!?」



 鬼のような形相で躊躇ない刃が振り下ろされる。

 やっぱり死ぬ運命だったのだ、と目を瞑って身体を固くしていると、逞しい腕が私を床へと投げやった。

 冷たい床に突っ伏し、反動で擦りむいた身体がひりひりとした痛みを告げる。思い出したように背後を振り仰ぎ、私は絶望した。
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