悪しき令嬢の名を冠する者
「レイニー様!」

「フィン……」

 視界がぼやけては揺れる。瞼を閉じ膝を折った瞬間。温もりに包まれた。揺り籠のようにあやす誰かの手が私を癒す。身体が浮いてはじめて、私は彼に抱かれているのだと知った。

 気付いた時には既に民の目はなく、安全地帯で揺られていたのだ。

「い、いつまで抱きしめているのよ……!?」

 馬車の椅子に腰かけ私を横抱きする彼と視線が絡む。目を白黒させて厚い胸板を押せば、バランスを崩し転倒しそうになった。

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ……」

 そこを支えられ、なんとか体勢を整える。来た時のように向かい合って座れば彼の顔がよく見えた。
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