悪しき令嬢の名を冠する者
「お前は姉のことが好きなんだと思っていた」

「知っていましたよ。ヴィンス様が勘違いなさっていることは」

「俺を騙していたのか?」

「いいえ。ただ、その方が都合が良かったんです。あの頃の僕は、まだエレアノーラ様に会っていなかった。
 だから知られるわけにはいかなかったんです。彼女に向ける熱い眼差しに」

 リーリエはカタリーナ様と肩を揺らして笑い合っている。そこにはヴィンス様の子供もおり、幸せを象っていた。

 草の匂いが僕達を包む。眩い景色が僕達を歓迎する。けれど薙いだ風は僕の言葉を攫ってはくれなかった。
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