悪しき令嬢の名を冠する者
「ご存知のことと思いますが、民は今、税金すら払えないほどの貧困に悩まされております。今日、お連れしようと思ったのは、あの地区の奥の酒場。レジスタンスの隠れ蓑です」

「お前……自分が何を言ってるか分かってるの?」

「はい。俺は参加しておりませんが、情報は共有しています。レイニー様が漏らせば俺の首は飛ぶことになるでしょう」

「笑えない冗談ね」

「笑ってくださって構いませんよ。嫌いな男の首でしょう?」

「血が流れるのは好きじゃないわ……」

「アンタがそういう人で安心しました」

 僅かに目元を緩める彼。それと同時に馬車が大きく揺れた。どうやら何事も無かったようだ。暫くして普通に運行を始めた馬車に倣うようフィンは続きを紡いだ。
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