龍使いの歌姫 ~神龍の章~
(けれども、それは無理なことじゃな。横笛を手にした瞬間から、レインは神龍と関わりを持つ者になってしまったのじゃから)

それを覆すことは、もう誰にも出来ない。例え結界で守られたこの龍の谷に来たとしても。

この国が穢れれば穢れるほどに、レインはレインの意思関係なく、国に巻き込まれる。

(……恐らく、あやつはレインを見つけ出すだろう)

龍族の長老は、月白国の占い師と同じ―否、それ以上に未来を見通していた。

レインがレオンに拾われ、ここに来ることも知っていた。

これからどうなるのかも、知っている。だが未来が絶対とは限らない。

(やれやれ、ティアを見付けた時から………いや、生まれたその瞬間から、レインの運命は決まっておった。アルの運命もの)

生まれた子供に罪はない。それは、誰にでも言えることだった。

けれども、大人達は身勝手に生まれたことに罪があるという者もいる。

赤い髪に生まれた。それだけで、罪などある筈がないだろうに。

(アルとレイン。この二人は出会うべくして出会った。そして、竜騎士を名乗るあやつもな)

レインとあの二人は深い縁で結ばれている。

『運命という言葉は、時に残酷じゃな』

明後日の誕生日を、彼女は無事に迎えることが出来ればいいと思うが。

(例えレインが歌わずとも、あやつはレインを見付けるじゃろう)

もし、そうなってしまっても、後は流れに身を任せるしかない。

(せめて願うのは、レインの笑顔だけが消えぬことだな)

笑うと花が咲いたような、そんな可愛らしい少女の顔が、絶望に染まらないことだけを祈って、長老は目を閉じた。
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