龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「姫様」

「あら?どうかしたの?」

セレーナは窓に持たれるように椅子に座っている。

「龍王様のお具合が悪いとのことで、セレーナ様に代わりを務めて頂きたいそうです」

龍王の側近の一人がそう言うと、セレーナはニッコリ笑みを浮かべる。

「……ねぇ?竜騎士は?」

「竜騎士……殿ですか?……さぁ、今日は見かけておりませんので」

「はぁ?」

側近の言葉に、セレーナは眉を潜めた。そのことで、側近の肩が跳ねる。

「今日は私と遊ぶ筈なのよ?勝手にどこに行ったの?ねぇ?私を置いてどこに行ったの??」

「も、申し訳ありません。すぐにお探ししますので!」

バッと頭を下げ、側近はそそくさとセレーナの部屋を出ていく。

「……忌み子も逃しちゃったみたいだし、野生の龍の卵も、竜でさえ最近は殺し方に迷いがあると、サザリナは言ってたわ」

独り言のように呟くと、窓の側に置いてある花瓶から、花を一本取ると、ぐしゃぐしゃにもぎくだく。

「……私のなの。私のじゃないと駄目なの。……竜なんて嫌い。神龍も大嫌い。……私のものを取り上げるような人は、皆大嫌い」

自分の母も、セレーナは嫌いだった。婚約者であり、自分の側に一生いてくれる筈だった相手のリトを、平気で神龍に捧げてしまったのだから。

そして、その原因となった占い師のことも嫌いだ。

けれども、何故竜が嫌いなのか、神龍が心から憎いのかは分からない。

気付いた時には、自分のものは無くなったと思った。

何かは分からないが。自分の半分が消えてしまったような感覚に、セレーナは怯えた。

だから、失ったものの代わりを求めた。何を無くしたのか、何が埋まっていたのかは分からない。

ただ、それが無くなったと気付いた途端、龍達が憎くなった。

本当に幼い頃は、そうでも無かった筈なのに。彼女は本能的とでも言うべきか、龍達のせいで自分のものが無くなったと思った。

「あは!あははは!」

何故か笑いが込み上げてくる。

「赤い髪って、血の色なんですってね。素敵ね」

だからこそ、欲しいと思った。自分と同じ色を持つ、自分よりも可哀想な存在が。

(……どんな子かしら?……楽しみね)

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