龍使いの歌姫 ~神龍の章~
「何故ですか?」

竜騎士の考えが分からず、レインは竜騎士を凝視する。

「お前が本当に歌姫なのか、それを確かめるだけだ」

レインが歌姫であることと、竜騎士に一体何の関係があるのだろうか?

(長老様は、外では歌うなと仰った。だから、約束は守らないと)

レインは竜騎士に首を振った。

「それは、出来ません」

「やはり、嘘か」

そうでなければ困る。

「お前、歌姫の称号が一体何を意味するのか、知っているのか?」

尋ねたのはアルだった。

「お前は龍の谷の者でありながら、何も知らないんだな」

どこか見下したような言い方に、アルは眉を潜める。

「……歌姫が、龍を慰めるというのは知っている」

「あー。姉貴が歌うと、何かこうさ、内側から癒されるってか、スッキリする感じだよな」

「ティアもレインの歌好きなの!」

アルの言葉にゼイルが答え、ゼイルの言葉にティアは小さく同意する。

「……なるほど。その程度の知識しか無いのなら、事の重大さに気付かないのも当然か」

「意味が分かるように言え」

「歌姫を名乗れるのは、神龍様を従えることが出来る者たけだ。つまり、本来なら龍王家の一族でなければならない。かつて、歌姫の称号を得られたのは、白の民の女性、それももっとも魔力に優れた者だけだった」

竜騎士の言葉に、アルもレインも目を見開く。

「そして、初代龍王もまた、歌姫の称号を得ていた。もし貴女が本当に歌姫ならば、貴女は王族以外で神龍様を従えてしまう存在となる」

「……私………が………?」

自分がそれほど、大それた存在などと思える筈がない。

(私は、ただの村娘。姉さんの妹で、師匠の弟子。それ以外の何者でもない)

だが、何故かカタカタと小刻みに体が震えた。

もしも、自分が本当に竜騎士の言った通りの存在ならば……そう思うと、恐怖が沸き上がる。

レインは恐怖を押さえ込むように、自分を抱き締める。

「しっかりしろ」

アルがレインの肩に手を置くと、レインはハッとしてアルを見上げる。

アルはいつもの落ち着いた表情をしていた。

「こいつがもし歌姫だったとして、お前はこいつをどうする気だ?」

「…………」

「龍王にとって、邪魔になる。ならば、殺すとでも?」

アルの冷たさを帯びた声が、竜騎士の心に刺さった。
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