龍使いの歌姫 ~神龍の章~
(……何が、貴女を歪ましてしまったの?)

何故かそんなことを思った。

「私の!私のなのよ!……もう渡さない。私のものは誰にも奪わせない!あは、あははは!」


セレーナがレインに会っていたその頃、牢屋の前で老女ととアルは対峙していた。

「お前、名は何という?」

「……お前ごときに名乗るつもりはない」

老女は涼しい顔でアルを見下ろす。

「そうか。では、わたくしが名乗っておこう。我が名はサザリナ。この国の未来を占う者。……二十一年も前のこと、わたくしはお前と同じ赤い髪の赤子を見たことがある」

「?」

サザリナの言葉に、アルは訝しげな視線を送る。

「かつて、今の龍王様は自分の兄の子を身籠った」

「!」

「生まれたのは赤い髪の赤子。だが、赤い髪は忌み子の証。王族に忌み子がいるのは何よりの汚点と言える。先代の龍王様は、その赤子を殺すよう命じた」

アルはサザリナの言葉を待つ。何故か嫌な予感がした。

「だが、その赤子は何者かに連れ去られた。城の者は弟子が連れ去ったのだと思ったらしいがな。だが、わたくしは知っている。……赤子を連れ去ったのは、幻惑の魔法使いだ。……レオンという名のな」

「!何だと?」

サザリナから「レオン」と言う名前が出て、アルは思わず立ち上がった。

レオンはレインの師匠の筈だ。

「どういうことだ?レオンはこの城の魔法使いだったと言うのか?」

「そうだ。奴は龍王様にお仕えしていた者だ。だが、赤い髪の赤子が殺されることに我が弟子と共に異を唱え、一度城からいなくなった。まぁ、すぐに戻ってきたがな。……奴は読めない笑顔を浮かべて何も言わなかったが」

サザリナはそこで言葉を切ってから、また続ける。

「だが、奴が赤子を連れ去ったのは間違いない。ティアニカはわたくしの命令で城から離れていたからな。……まぁ、そんなことはどうでもいい」

サザリナはアルへと視線を戻した。

「わたくしが言いたかったのは、お前はレオンに連れられ城の外で育ったということだけだ」
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