龍使いの歌姫 ~神龍の章~
(……幻惑の魔法使い、龍王の血を引く赤い髪の子供)

頭の中に、この二つの言葉が響く。

「私、何となくその子は生きてる気がしたの。そして、貴女を見て思ったわ。もしかしたら、貴女は私が無くしてしまったものかもしれないって!」

「……まさか、私をその赤い髪の子供とお思いですか?」

レインの声は震えた。そんなわけはない。セレーナの話にはおかしいところがある。

彼女がいつから何かを無くしたのかは分からないが、恐らく赤い髪の子供は、セレーナが生まれる前に生まれている筈だ。

そして、赤ん坊のうちに消えたのなら、セレーナと接点は無い筈だ。

何より、もしセレーナの言った通りなら、セレーナは自分より年下の筈だが、セレーナは自分と同じ年だとレオンから聞いたことがある。

「そうよ!」

「けれども、おかしくはありませんか?もし赤ん坊の時に拐われたのなら、セレーナ様と接点は無い筈です。セレーナ様は、いつからご自分のものを無くされたと思ったのですか?」

「……私が私のものを無くしたと思ったのは、十才の時よ」

ならば、余計にレインがセレーナの言う赤ん坊である筈がないと思った。

レインだって、城にいた記憶はない。

「でも、確かに私はそう思ったのよ!私がそう思ったのならそうなの!」

どうやらセレーナにとって、こちらの主張など意味はないらしい。

「それにね、別に貴女が私の従姉で父親違いの姉妹かなんてどうでもいいの。貴女が私の側にずっといてくれれば、私はそれでいいの!」

セレーナはもう一度レインを抱き締めた。

「……私は……」

「レイン。私のレインよ!うふふふ!!」

レインは、何故かセレーナを引き剥がせなかった。

狂気のようなものを感じるのに、恐怖は湧かず、何故かセレーナが可哀想に思えた。

何故なのかは分からない。けれども、確かに悲しいと思った。
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