龍使いの歌姫 ~神龍の章~
それは何かと視線を送ると、神龍は黙ってエレインを見下ろした。

『穢れとは、人間が持つ欲望。悲しみ、怒り、嫉妬。そう言う歪んだ負の感情が具現化したものじゃ。空気のように、本来なら目に見えないものじゃが、赤の民と白の民は、その穢れを自分で浄化することが出来た』

けれども、何の力も持たない普通の人間達が、それを浄化しきるのは不可能だった。

『私の役目は、その穢れを取り込み、浄化することじゃ』

「?空気を綺麗にする、植物みたいなものですか?」

エレインの例えに、神龍は喉を鳴らして笑う。

『クックッ。面白い考えじゃな。……まぁ、分かりやすく言うならそう言うことじゃ』

「凄いのね!神龍様って!……でも、神龍様が一人で浄化するんですか?」

エレインの言葉に、神龍は頷く。

「………そしたら、神龍様は大変じゃないですか?」

『………』

「ここには沢山の人がいるから、神龍様がそんなに沢山の人の穢れを浄化してたら、神龍様、いつか倒れちゃいます」

この国にどれくらい人がいるのかは良く分からない。けれども、とても沢山の人が住んでるのは知っている。

無理をしすぎれば倒れてしまう。エレインはそれが心配だった。

「神龍様だって、お休みあった方が良いわ。遊んだり出来る時間があった方が良いと思います」

『私は、ここから動けぬ。だから、外へ出て遊ぶなど出来ぬよ。私がここにいないと、国が持たぬ』

神龍の言葉に、エレインは悲しくなった。

「……そんなの、悲しいわ。神龍様だって私達と同じ『生き物』でしょう?……私だったら、こんな所で独りぼっちなのは、寂しいです」

『……私を神ではなく、同じ『生き物』と言ってくれたのは、二つの民を除けば、お主で三人目じゃな』

悲しくて涙を流したエレインを、神龍は慈愛の籠った眼差しで見る。

エレインの心の中にある優しさと、清らかさに、神龍は心を癒された。

『泣くな。優しき子よ。お主が悲しむことなど無いはずじゃ』

神龍の優しく諭す声に、エレインは首を横に振った。

「無理です!だって神龍様、可哀想です。これじゃあ、お人形さんと変わらないですもん!!」

しゃくりを上げながら言い放った言葉に、神龍は目を見開いた。

『……お主は、賢い子じゃの。無意識に的を射たことを言う』

「っ、私決めました!」

『?』

エレインは唐突に顔を上げ、涙を乱暴に拭う。

「私、これから毎日神龍様の所に来て、神龍様といっばいお話します!神龍様が寂しくないように……いっぱい」

『!』

エレインの言葉の意味に気付き、神龍は暫し困惑したようにエレインを見ていたが、やがて小さく笑う。

『ならば、ぜひ頼むとしようかの』
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