龍使いの歌姫 ~神龍の章~
その日から、時間を見付けてはこっそりと神龍の元へと行った。

神龍の間へは龍王家の血筋のものなら、簡単に入ることが出来たのだ。

自分が見聞きしたこと、勉強で教わったことなどを神龍に聞かせると、神龍はいつも耳を傾けてくれる。

ある日、何時ものように神龍の間へ行くと、見知らぬ女性が立っていた。

「?あなた、誰?」

「分からぬのか?」

その声も喋り方も、エレインは確かに聞き覚えがある。

「………神龍様?」

エレインは目の前に立つ、金色の髪の女性に困惑した。

「そうじゃ。魔力の高い龍は、様々な生き物へと姿を変えられるからの。私が人間の姿になるのは、かなり珍しいのじゃが、お主にはこの姿を見せても良いと思っての」

神龍は両腕を広げた。

「お主を……抱き締めたくなったのじゃ。……おいで」

「!……神龍様!」

エレインは神龍へと飛び付く。太陽のような温かい匂いがした。

母親の姿を、エレインは神龍に重ねた。


「また怪我をしたのか?」

エレインは良く遊ぶが、同じくらい良く転んで傷を作る。

神龍はエレインの頭へ手を乗せた。

「平気です!慣れちゃいました」

「お主は優しくて賢いが、時々回りを見ることを忘れるようじゃな。あまりにお転婆すぎると、とても王女には見えぬぞ?」

神龍の呆れた声に、エレインは落ち込んだように俯く。

「……まぁ、それがお主らしいからの。私は好きじゃが。……お主は王族としてよりも、普通の娘として育っていた方が、きっと幸せだったじゃろうに」

「?」

憂いを帯びた顔で、神龍はエレインの頭を撫でた。

「……今のままでは、お主は優しすぎるの」

「神龍様?」

「……エレイン。強くおなり。心を強く」

心配そうにこちらを見上げるエレインに、神龍はそう告げた。

「強く?」

「そうじゃ。お主は優しくて賢い。じゃがまだ脆い。それ故、心配じゃな」

神龍は頷くと、エレインの耳元へと顔を寄せる。

「……約束をしておくれ。お主はいつか―」

その後に呟かれた言葉に、エレインは頷いた。

「?……分かりました!」

エレインはその約束を、いつか果たすと頷いた。約束の意味も知らずに。
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