龍使いの歌姫 ~神龍の章~
神龍が治める国にいた、赤の民と白の民には、特別な力があった。

白の民は龍の心を癒す力、赤の民は龍を、溜め込んだ穢れごと浄化する力を持っていた。

けれども、両方の民は自分で穢れを浄化することが出来たので、龍達が穢れを溜め込むことは無かったが。

だが、何の力も持たないただの人間は、穢れを自身で浄化出来ず、溜め込んだ穢れはやがて殺意へと代わり、人と人が憎しみあい、殺しあってしまう。

だから、神龍は人々の穢れを取り込み、浄化していった。

けれども、時と共に人は増えた。そのことで、穢れも増える。

いくら浄化する力を持った神龍でも、限界というものはあった。

浄化しきれなかった穢れは、やがて神龍の体を蝕み、神龍は弱ってしまった。

そこで恐ろしいのが、今度は神龍が人々を襲い、殺してしまうことだった。

自我を保てなくなれば、人を食らう化け物となってしまう。

だから、赤の民の長は、神龍を殺した。神龍が大切にしてきた人々を、その手で殺めてしまわないように。

けれども、人々は神龍を殺した理由など聞こうとはせず、赤の民の長を処刑し、残りの民も闇へと葬った。

神龍がいなくなった恐怖が、人々を駆り立ててしまったのだ。

そして、新しい神龍が龍の谷からやってきた。

前の神龍と同じ様に、彼女も穢れを取り込み浄化していた。

だが、神龍としてはまだ若く、未熟だった彼女は、すぐに穢れに蝕まれ、人々を恐怖で押さえ付けてしまった。

そんな彼女の元に、一人の少女がやってきた。
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