オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「……失敗したなぁ」

少し難易度が高めで面白そうだと手を出したのに。

例えば……例えば、友里ちゃんが俺に振り向いたとして。俺はそのとき、どうするだろう。

いつものゲームみたいに、優越感だけもらって、冷たく切り捨てるんだろうか――。

そんなことを考えていたとき、うしろから呼び止められる。

「松浦くん」という声に振り返ると、人混みのなかに加賀谷さんの姿があった。
走って追ってきたのか、肩で息をしている。

こうして、追いかけてきてまで俺と話したいことなんかあったか?と考えながら、向き合うように立ち直ると、加賀谷さんは二メートルほど距離をとったところで足を止めた。

俺たちを避けるように、通行人がどんどん歩いていく。

加賀谷さんが鞄を持っていることに気付いて驚いた。

「あれ、いいんですか? 隣に座ってた子、加賀谷さんに気がありそうだったのに」

コートも着ているし、戻るつもりはないんだろう。

傍から見ていても脈がありそうだったのに勿体ないな、と思っていると、加賀谷さんは少し黙ったあとで俺を見る。
真面目な顔だった。

「篠原のこと、傷つけるつもりなら諦めてほしい」

さっき飲み会の場では一度も見せなかったような真剣な眼差しで告げられ、驚く。でも、一瞬感じた驚きはすぐに巨大な怒りに覆いつくされた。

「……は?」

眉をしかめた俺に、加賀谷さんが言う。



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