オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき
外に出ると、さっき通ったときよりも人通りは多くなっていた。二十時過ぎという時間帯のせいもあるんだろう。
ぶつからないようにひとを避けながら、西口に向って歩き出す。
飲み会でたまった苛立ちを逃がすように息を吐きだすと、空気が白く染まった。
そういえば今日の最低温度は六度だった。これから最低気温に向かい、どんどんと冷え込んでいくんだろう。
これでまだ十一月末なんだから嫌になる。友里ちゃんじゃないけれど、そろそろマフラーと手袋が必要かもしれない。
――それにしても。
あれだけ一途に想われたら、普通、ほだされたりしないだろうか。あんな風に真っ直ぐな気持ちを向けられて断るか? 普通。
社内の、しかも同じ部署の人間相手に下手なことして気まずくなったら面倒だという気持ちはわかる。
男なら特にこの先何十年とこの会社に身を置くことだって考えているし、女とのどうこうで立場をなくすなんて馬鹿馬鹿しい。
でも、相手は友里ちゃんだ。
例え結果的に別れることになったって、面倒なことなんて言いださない……と、そこまで考えて、自分自身にため息を落とす。
友里ちゃんに肩入れしすぎていることに気が付いて。
誘拐犯は、感情移入することを防ぐために人質の名前は呼ばないというけれど、まさにあんな感じだった。
今まではただゲームのターゲットとしか意識していなかったから、傷つけたところでなんとも思わなかった。自分の得る満足感しか興味がなかったから相手なんてどうでもよかった。
でも今回は、〝友達〟になってしまった。
恋愛とは関係ないことも話したし、彼女の色々な面を見た。
意地っ張りなのに傷つきやすくて、真面目で優しい女の子だと、認識してしまった。いい子だと思ってしまった。