オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「社員旅行で遊園地と水族館ってきつくない? どこ見たってデートしてる若者しかいないじゃん。そのなかで楽しめとか、組合ってバカの集まりなんじゃないの」

無表情のまま淡々と厳しい言葉を放った工藤さんに苦笑いをこぼした。
同じような意見は持っているものの、工藤さんのこれはいくらなんでもあけすけすぎる。

一応、周りに社員や組合員がいないのを確認しておく。

「工藤さん、さすがにそれは……」
「篠原だって思ってるくせに。社員旅行の行き先が決定した瞬間〝うわ〟って顔してたの見てたからね」

じとっとした横目で見られる。
目撃されていたのか……と、反論は早々に諦めて「まぁ、それは思いますよね」とため息まじりに言った。

たぶん、第三者からは工藤さんに負けず劣らず感情がこもっていない声に聞こえるのだろう。

表情にも声にもなかなか感情がのぞかないのは昔からで、周りからは無表情だとか無愛想と言われることが多かった。
感情がないわけではないのに、それを表に出すことが苦手らしい。

「ほら、思ってたんじゃない」
「だって遊園地って歳でもないし、それ以前に同じ会社ってだけの薄い繋がりしかない社員相手にどう楽しめっていうんだろうって。しかも寒いし」

寒いのは、自由行動になってからずっと動いていないのも理由だろう。

どこにいっても人が多いし、一度席を立てばもう落ち着いて座っていられる場所はなくなってしまうかもしれない……という考えから、かれこれ一時間半、園内にあるカフェのオープンテラス席に座りっぱなしだ。

両手で包んでいるホットカフェオレはもう二杯目が終わろうとしている。
青空の下、高速ジェットコースターがレールを走り抜ける音が聞こえ、正直なかなかの騒騒しさだ。




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