オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「でも私は口には出してません」と言うと、二年先輩である工藤さんが口の端を上げた。

「まぁそうだよね。篠原はこの社員旅行にどんなに不服があったとしても、加賀谷さんに頼まれたらまず断れないもんね」
「ちょっと……こんな場所で……」

社員が大勢きている遊園地内。誰かに聞かれていたらどうしようと、周りをキョロキョロと見回す私なんか気にも留めない様子で工藤さんが続ける。

「でも、篠原って淡泊そうだし、いかにも現代っ子って感じなのに案外、熱いよね。好きな男に誘われたからってわざわざ休日つぶしてこんな遊園地にくるんだから」

会話が聞きとられる範囲に知っている顔がいないことを再度確認して胸を撫で下ろす。
それから工藤さんに口を尖らせた。

工藤さんが言った〝現代っ子〟という言葉は私の性格の的を得ているとは思う。自分で言うのもアレだけど、私の性格はドライだとか冷めているという表現がよく合っている。

……でも。

「私が現代っ子なら工藤さんだって同じでしょ。基本、なにに関しても興味薄いし、他人との繋がりも深くは望まないし」
「まぁね。だから篠原とは一緒にいて気が楽なんだけど」

なにか特別な意味でも込められたみたいな笑みを向けられ、うっと言葉を呑む。
工藤さんはたしかに私と似た部分はあるけれど、こういう、からかい好きな部分は似ていない。

すっと目を逸らしながら「工藤さんって、そっちの趣味ないですよね……?」と念のため確認すると、「どうかなぁ?」と楽しそうな声で返された。

完全にからかわれている。

「しかし、こんな綺麗も可愛いも持ち合わせた篠原に想われてるのに振り向かないとか、加賀谷さん女に興味ないんじゃないの」

はーっと白い息を吐いた工藤さんに、「元カノいたって聞きましたし、それはないかと」と冷静に話すと、納得いかなそうに眉を寄せられる。


< 3 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop