オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「大丈夫です。来週半ばくらいまで大丈夫ですか?」
「ああ。月末までで問題ない。一応、クレームが入って一ヶ月以内に解決策を出したって結果が出せれば上は満足なんだろうし。
悪いな。俺も今週会議続きで時間がとれそうもなくて……申し訳ない」

「そんな気を遣ってくれなくていいですよ。それに加賀谷さん、今週、出張もありますし、これくらいなら私にもできますから。
……でも、こんなの本当はクレーム対策室の仕事ですよね」

なんのためにある部署なんだろうと口を尖らせると、加賀谷さんが苦笑いを浮かべた。

「まぁ、たぶん作業が面倒なんだろうな。……あとは、どこまでが機密事項かを理解しきれていない可能性もある。あの部署にいるのは製造に関わったことがないような、実験結果とか書面ばかりを相手にしているようなエリートばかりだから」

「ああ……なるほど」

うちの会社は、入社時、CコースとEコースのふた通りにわけられる。
現場、もしくは現場に遠からず携わる部署から経験していく、一般的なのがCコースで、八割の社員がこの枠で採用されている。

品管や庶務、総務とほどんどの部署にいる社員がCコースだ。

そして、高学歴を絶対条件として採用されるEコースの社員が配属されるのは、会社の核部分。
あまり言いたくはないけれど、松浦さんがいる企画事業部なんかがまさにそうだ。

顧客データを基に戦略を打ち出したり、人材教育や、今の管理者体勢について考えたりと色々しているらしいけれど、正直、印象はよくない。

体裁を考え、出される指示は、現場のことなんてちっとも配慮してくれていないことばかりだし、無茶ぶりも多い。

今回のこの件だってそうだ。

Eコースはいわば出世コースだし、給料のベースも違うから、松浦さんはそういった点も含め人気があるのだろうけれど……都合よく使われている第二品管の社員で、Eコースの人をよく思っている社員はいないと思う。



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