オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「……それ、私、怒ってしかいないじゃないですか」という声が小さくなってしまったのは、松浦さんがやけにやわらかい微笑みを私に向けていたからだった。

いつもの、貼りつけたような営業スマイルでも、バカにしたような憎たらしい笑みでもなく、嬉しそうな温かい微笑み。


この顔が、松浦さんの本当の気持ちからくるものだと決めつけられるほど、私は松浦さんを知らない。

もしかしたら演技をしていて、とっておきの微笑みで私をオトそうとしているって可能性だってあるわけだし。

だけど……いつもの笑顔よりも、よっぽどいいなぁとは思った。

ぼんやりと見つめてしまってからハッとして目を逸らすと、松浦さんがふっと笑ったのが音でわかった。

「〝私も好きです〟って嘘つけばそこで終わりなのに、それもしない。最初は、見た目に反してあまり頭がよくないのかもしれない、とも思ったけど。友里ちゃんと話すなかで、その理由がわかった」

さぁ……と吹いた風が、歩道の道路側に植えてある木を揺らす。紅葉の季節を過ぎた葉は地面に落ち、カラカラと小さな音をたて転がっていた。

「友里ちゃんは頭が悪いんじゃない。不器用で、すごく純粋なだけだ」

優しく目尻を下げた松浦さんが、まるで子犬でも愛でるような眼差しを向けてくるから、目を逸らし、口を尖らせる。


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