オオカミ御曹司、渇愛至上主義につき


「誰彼構わず好きだのなんだの言えるほうがおかしいんですよ。私が普通です」

あの日、加賀谷さんに必死の思いで伝えた〝好き〟の言葉は、たとえ嘘でも他の人には言えない。

それは、普通のことだ。

「加賀谷さんに……加賀谷さんだけに、聞いてほしいのに」

感情が溢れぽとりと零れ落ちた言葉に、一瞬してからハッとする。

じめじめした雰囲気にしてしまった気がして慌てて顔を上げたけれど、松浦さんはなにも聞こえていなかったようで、「ん?」と首を傾げられる。

少しだけ、口角が上がったきれいな笑みを見て……なんとなくだけど、きっと今の私の独り言は聞こえたんじゃないかと思った。

その上で、聞こえないふりをしてくれている気がした。

「……いえ。今日も好きじゃないですって、言いたかっただけです」
「今日はそれ、言われてないなって思ってたのに」

半分悔しそうに、半分おかしそうに笑う松浦さんを見て、私も、ふふっと笑みをこぼす。

この人の恋愛スタイルは正真正銘、誰が何と言おうと最低だけど。
性格は、そこまで悪くないのかもしれない。

あの日、イルカの水槽の前で感じたような〝なに、この人……!〟というひどい印象はだいぶ薄れていた。

慣れもあるんだろうけれど。
少なくとも、私にはそこまで嫌なひとだとは思えなくなっていた。






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