不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 ただこれは当然のことでもある。世界は広く、人を初めとした生き物は多く、すべての歴史がそれなりに長い。

 生まれ育った自分の世界のことでも、二十三年間で知り得たのは、ほんの端くれでしかない。

 ぱちんと薪が爆ぜる音で、まゆこは物思いから引き戻される。

 薪が足された暖炉は、担当の者が早朝にやってきて新たな薪をくべる。夜中に起き上がっても大丈夫なように火は燃え続ける。

 空気の流れを感じるので、空調的な配慮もされているようだ。

 チロチロと揺れる焔は物思いを煽る名手だった。

 ――晩餐……ちゃんとした会話ができていたよね……?

『美味しいわね。秋の味覚はそろそろ終了でしょう? 惜しいわ』

『そうだな。……マユコ。昼間、温室の方へ来ただろう?』

 隠れて近づく者がいても察知できるように、周囲に仕掛けがあったに違いない。

 行っていないと言えば、ジリアンは『そうか』と流してくれるだろうが、まゆこは言葉少なく本当のことを話した。

『行ったわ。ジリアンは訓練の最中だったから、声を掛けずに部屋へ戻ったのよ。いけなかった?』

『いや、いい』

 奇妙な受け答えではなかったはずだ。
< 161 / 360 >

この作品をシェア

pagetop