不本意ですが、異世界で救世主はじめました。
 外は確かに寒かったが、ゲルツ王国が誇る王城の外観を眺めるのも楽しい。壮麗さに感嘆のため息が漏れた。

 きょろきょろと視線を動かしながら歩く。いつの間にか隣にいたジリアンが、まゆこが窓から眺めていた林はこちらだと教えてくれる。

 林の主な樹木はブナだった。高い木を見上げたまゆこは、うっすらと口元をほころばせる。木々に囲まれたこの空気が好きだ。

 足元には、貴族家には当たり前にあるというヒイラギが生垣のように連なっている。

 まゆこはヒイラギに近寄って、その異変に気が付いた。

「花が……蕾のままで開いていない」

 元の世界では十一月ころには白い花が眺められる。バーンベルグ城のヒイラギは花盛りだった。それが、もっと北よりになる王城で蕾のままとは。

 ジリアンが眉を寄せて聞いてくる。

「異変を感じるか?」

「……えぇ。そういえば、ブナは――落葉広葉樹なのに、紅葉もしていない。え? 緑のまま散っているの?」

 林というより森に近い。ドレスを着ていては奥へ行けないほどブナが生えているというのに、どれもこれも紅葉の気配もなかった。

 足元には緑のままの葉が落ちている。
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