愛のない、上級医との結婚

じっとりと高野を見上げて、私はその瞳の中の真意を読み取ろうと試みる。
表情をあまり変えない彼は、それでも少しだけ不思議そうに私を見返す。


「……急ぐも何も。僕は理事長からこの話を貰った時点で断る気はなかった。そして君も、それに頷いた。いつかは結婚するのに、どうして時間を長引かせる必要があるんだ?」


それに、と彼は続ける。


「例えばここから半年、君と付き合って、何か違うなとお互い感じたとしよう。それで別れるというのも1つの選択肢だと思うが、もしそこから先、10年、20年一緒にいてもやっぱり失敗だったと思うかどうかなんて……たった半年一緒にいたくらいでは分からないと思わないか?」


「……それはつまり、半年で合わないと思っても10年一緒にいたら意外と上手くやってるかもしれないんだから、その半年間のお試し期間なんか吹っ飛ばして結婚しちゃった方が時間を有効に使えてるんじゃない?ってことでしょうか?」


少し考えて、そう言うと満足気に高野は頷いた。


「そうだな。僕は暇じゃないし、時間の無駄は省きたいんだ。来年には留学の話も出ているし……結婚という誰が相手でも変わらないだろうものにあまり時間をかけたくない」


「……先生、本音漏れてますけど」


「これは失礼した」


全く悪びれずにそう言う高野に、私は呆れた。
呆れたし、私だから結婚してもいいかな、なんて思ってくれてた訳じゃなかったことに少しだけ寂しさも感じていた。

< 19 / 43 >

この作品をシェア

pagetop