愛のない、上級医との結婚
家に上がったあと、トイレやお風呂へ続くドアがある廊下を通ってリビングに入り、そこからさらに奥に二つ並んだ部屋の向かって右側ーー自分の部屋として当てがわれた場所に荷物を置きに直行する。
高野の家は、本当に一部屋分使わないで余っていたようで、そこに私の分のベッドが運ばれている。
ので、そこを私室として使わせて頂いている。
昨日のうちにベッドの他に自分の家から持ってきた棚やら照明やら小さめのテーブルやらを詰め込んだので、8畳のその部屋はそれなりに私色に染まってきている。
寝室が別で良かった、と内心ホッと息を吐く。
夫婦といってもまだほぼ他人に等しいのにいきなり寝室一緒なんてどんな罰ゲームだ。
ちなみに高野の寝室は隣の部屋だが、まだ踏み入ったことはない。
「いつ踏み込むことになるんだろ…」
少し考えて、恥ずかしさに考えるのを放棄した。こんなもの、なるようになるしかないんじゃ!
「もう、大分サマになってるな」
いきなり背後から声をかけられて、ぴゃっと飛び上がる。
「た、た、高野先生っ!入るときはノック!ノックして下さいな!」
「そういうものか。同棲なんか初めてだからな、そういうのも分からん」
「たぶん、一般的にはノックしてから部屋に入ってくるものだと思います!ほら、やり直しやり直し」
ぎゅうぎゅうと部屋の外へ追い出して、やり直しを強要すると、高野は律儀に二回ノックした。
「入っても?」
「いいですよ」
ガチャ、と開けておそるおそる顔を出した高野に笑ってしまった。