秘書課恋愛白書

「いや、その…私とかじゃなくて、特定の恋人とか作って…そのー…」


返答に困ってしどろもどろになっていると、社長はまたこちらへと近づいてきて私に背中を向けてベッドの端に座り直した。



「恋人、ね。そういう面倒くさいのもう嫌なんだよね」

「面倒くさい…?」

「恋だの愛だの、もうどうでもいい。だからさ…」


社長はこちらへと振り返った。

その拍子にギシッとスプリングのバネが音を立てる。

社長の瞳は儚くて、どこか悲しげで何かを諦めたようなもので私の胸に突き刺さる。


「もう綾女だけとしかしないなら、いいよね?」


そう言って私に口づけをしたのだった。

考えるよりも先に体が動いていた。

パンッと大きな音を立てて手を振りかざし、それは社長の頬を思いっきり平手打ちする。


ほらね、やっぱり。

からかわれてるだけじゃない…

たった一回失恋したぐらいでそんないい加減な人間になるなんて馬鹿じゃないの?
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