一匹狼くん、拾いました。




一年前のことは、思い出すだけで吐き気が増して死にたくなる。




楓が死んだあの日以来、俺は父さんに会っていない。




しかし、だからといって家の異常さがなくなった訳でもない。




華龍の家から、無駄に重い足を引きずってどうにか帰ってきた。





バイクなんてそのうち取りに行けばいい。





目の前にあるのは、ボロくて廊下の所々に蜘蛛の巣があるような腐り果てたアパート。






家賃は1万弱だ。








俺は階段を上がって二階に行き、左端にあったドアを、スキニーのポケットから出した鍵で開けた。





「……ただいま」





「俊平!その怪我どうしたの?もしかして、お父さんに……?」



やせ細った母さんは、心配そうに俺の左足を見ていた。



「ううん、違う。……これは喧嘩しただけ」




「そうなの? 俊平、ごめんね。ごめんね。本当に、ごめんね……。こんなお家で、それに私は十年もあなたを苦しめて…….」




俺が一年前に複雑骨折を起こしたあの日から、母さんは異様なほど俺の怪我に敏感になってしまった。




毎日毎日ごめんなさいごめんなさいと、狂ったように謝ってくるのだ。




俺としては、謝ってこなくていいから、もっとちゃんとした家族に戻りたいと思うけれど。






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