花と傘とバス停と
最初に目に入ったのは、「警戒」を表す眉間によったしわ。次に、細めたつり目。
三つ編みにしたおさげと、シンプルな制服をまとった姿を見て、女子高生なのだと悟った。
もしかしてこれはあらぬ勘違いをされているのではないか、そう思った途端全身から汗がじんわりと吹き出るのを感じた。

「あ、あの……もしかして~、はなざわさん?」

「はい。はなざわです」

花澤さんは直立したまま睨むように俺を見る。

「それ、返してもらえますか。窃盗容疑で警察呼びますよ」
「……は?」

……なんっだこの女ッ!!!!

俺の親切心、良心が、その一言によって砕け散った。
人を見た目や行動だけで判断しすぎではないか? ていうか初対面だし! いや、初対面なら警戒するのが普通か?

男から売られた喧嘩は必ず買う廉だが、流石に女に手を出すのは気が引けた。
花澤さんは、見た目からしてとても真面目そうだ。
規則に沿った制服の着方、きっちりまとめた髪。 「JK」と呼ぶにはあまりにも華やかさがない。
そんな率直ながら失礼な事を思っていた。
このままではいけないと、必死に弁明の言葉をぶつけようとする。

「んん……えっとー、俺別に盗もうとした訳じゃ」
「他人の物に許可なく触れたり持ち上げることは立派な迷惑行為です。現に私が不愉快になりました」

一蹴(いっしゅう)された。まだ途中だったのに。

(俺が押されている……? しかも初対面の女に!)

悔しい、そして情けない気持ちが頭のてっぺんからつま先まで循環する。

「なので、いいですか? 返してもらっても。いつまでもベタベタ触らないでください」

────俺の中の何かが弾けた。

「おいテメェさっきから何様だよ」

これでもかというほど眉間にしわをよせ、彼女より僅かに高い身長を利用し上から詰め寄る。

「初対面のくせして随分と偉そうだな、あぁ!? つか、盗もうとした証拠とか無ぇくせに勝手に決めつけんな! 俺はただ誰のものか確認しようとしてただけだっつの!」

バス停に声が反響し、花澤さんは少し驚いた様子を見せた。
言い合いをしているうちに、バスが来てしまった。 廉は勢いよく傘を持ち主に返すと、地面を強く蹴りながらバスに乗り込んだ。相当荒れている様子だ。

(あークソ、今日は厄日だな)

バスが出発する時、廉は窓ガラスから花澤さんを横目で確認した。
そのまま驚いた表情をした彼女が、バス停に一人取り残されるのを見送った。
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