王子は冒険者になる!


フランチェスコ王子とマーカーが
組み合っていると、ふと 後ろから声をかけられる。

「---サーフェス殿。いかがですかのぉ?」
「おぉ。お久しぶりですな、バームス殿。
 おや、次は魔術の時間ですか?」


フランチェスコ王子の魔術の先生
バームスだ。
初老の人のよさそうな笑顔を浮かべて、
ゆったりとしたローブをかぶっている。


「いいや、今日は無いのじゃがな。
 ふぉふぉ、相変わらずフランチェスコ王子は規格外に
 面白い、強さのようじゃなぁ。」
「そうだな。まぁ、本人は
 いつも、マーカーにやられて 悔しがっていますよ。」

魔術の膜や強化を使うと
鎧を付けたようになり、羽を付けたように体が軽くなる。

魔力をまとわず、戦うというのは、それだけでハンデだ。
センスも実力もあるマーカーに
そのまま勝つのは無理だろうな。


フランチェスコ王子には
一応、魔力の循環と強化について話している。
王族の危機管理、いつ何時襲われるかわからないから
魔力のない状態で強くしたい、との方針だということも説明している。
そのことは伝えたが彼の反応は、
「じゃ、とりあえず、生身で鍛えます。」だった。
毎日 走り込みも欠かさないようだし。

「ふぉふぉ。体術もやりよるのぉ。
 しかし、やっぱり、弓矢のほうが適性があるかの?」
「そうですね。「光」の魔力との相性を考えると弓矢でしょうが、
 王子は剣をとるでしょうね。
 あぁ、王子は槍も得意ですよ。どちらかがよろしいかと。」


「そうか。では、「側近」は操作系の奴がいいのぉ。
 魔力で選ぶかのぉ。」

ふむふむ。と魔術師のバームスは白いひげをなぞる。

フランチェスコ王子の魔力は、まだ安定しているとは言い難い。

そもそもフランチェスコ王子は「光の魔力」の持ち主だ。
光は、魔力量も多い傾向がある。それゆえ、魔力が安定しにくい。

体に止めておくのが難しい。
ゆえに、体の強化をしながら戦うのも、慣れないと難しい。
ゆえに、光の魔術は後方支援が多い。

隠密にも向いていない
光の術をまとわすと光り輝くのが多いからな。

フランチェスコ王子は前線で戦いたいタイプだろうな。


「サーフェス殿。王子は魔力も安定してきたから
 そろそろ、剣技や体術に「守護」なら応用しても大丈夫じゃろ。体術強化はまだじゃの。」
「おぉ。そうか。
 楽しみだな。センスはありそうだがなんせ「光」だからなぁ・・・」


「ふぉ。ふぉ。光だけではないぞ。
 王子はある程度なら、全部使いこなせるぞ。」

「規格外だな。」
「ふぉふぉ。しかし、属性に特化したものにはその属性では勝てぬ。」

魔術の先生であるバームスは楽しそうに
髭をなぞった。

その時、組み手をしていたフランチェスコが二人に気が付いた。
「あっ、先生~!いってーー!マーカー。不意打ちっ!」
「手合い中に、よそ見をするほうが・・・」
マーカーに腹に一発入れられて、
王子が ごほごほ、と軽く咳き込む。


あれは、結構痛いだろうな。
身体強化していないからな。

「ふぉふぉ。マーカーは手加減、無し、じゃの?
 教えてないのかの?サーフェス殿。」

「まぁ、あえて教えてはないが
 フランチェスコ王子の服には多少の防御が付与されているから
 まぁ、致命傷はないだろう。」

あっけらかんと、答える。

「ふぉふぉ。まぁ、王子の身体能力も、
 解ったし、魔力との相性も見て、『影』を決定するとするかのぉ。」
「あぁ、早く・・・したほうがいいかもしれぬな。」
「・・・裏切る、護衛の騎士もいたようじゃしな。」


サーフェスは苦々しい顔をして
魔術師バームスを見る。

バームスも、目は真剣だ。

「王子と同世代の最強の影は アレッサンド第一王子についてますしね。
 大体、こんなに早く影が必要になるとは・・・」
「ふぉふぉ。大丈夫じゃ。
 わしの孫を推薦しようか・・・」

「げ?!!」

サーフェスは、彼の孫を思い出して、
嫌な汗が噴き出した。
あの、あいつか!?だ、誰にも傅かない・・・最強の
暗殺者ーーーー。

「ほ、本気ですか?バームス殿。
 彼を連れ出すと、暗部が・・・」
「ふぉふぉ。本気じゃよ?
 これでも、わしは、フランチェスコ王子が好きじゃからのー。」


あーぁ。
だ、大丈夫かよ。王子。がんばれよ!

はぁ、と心の中でため息をついて
フランチェスコ王子を 見るのだった。
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