王子は冒険者になる!



うそだろ、おい。

今更 婚約者かよ。

五枚ほどつづられたご令嬢の詳細プロフィールってか。


「ジゼ。」

自分でも思ったよりも低い声が出た。
てか、声も、手も怒りで震える・・・。

ふ ざ け る な。

「・・・フランチェスコ王子。
 これは、王族の義務であり、務めです。
 あなたの『婚約者の座』をねらって 貴族どもの不穏な動きはご存じで?」

「しらん。」

そんなこと 知らん。どうでもいい。
俺は 婚約者など いらない。
さっさと自由に冒険したいんだ。

「はぁ。いつまでも 子供のようにわがままを言ってもらっては困ります。
 あなたが 決めていただかなければ
 こちらが勝手に決める との 王からの言葉です。
 兄であるアレッサンド様も、宰相も、
 あなたの『力』を認めていらっしゃいます。
 いつまでも 甘えてばかりでは、国民に示しもつきません。
 婚約者がいなくても、あなたなら大丈夫でしょうが
 うるさい貴族どもを黙らせるためには あなたの力になる 
 後ろ盾としても婚約者が必要であります。
 フランチェスコ王子として、決断を。」

うお。
珍しく、ジゼが長文で説教だ。

というか、これで 頭が冷えた。

うん・・・。
あぶねぇ。怒りに任せて怒鳴りつけるところだった。

っていうか、俺ーーー
甘えてたんだな。
何言ってんだって感じだよな。

ぬくぬく 王宮の守られた生活で
ただ 逃げ出したい。だなんてさぁ。

覚悟が・・・無かったわ。

皆 いい人ばっかりだもんな。
父も、母も 嫌いじゃない。まぁ『親子』らしいスキンシップは少ないけど
少なくとも俺の中では 立派な国王だと思うし。

そう。だから
覚悟が つかなかった。逃げてた。


「ジゼ。俺・・・
 ふぅ。 
 ジゼディシアロー。決めたよ。」

そういうと、机の上に散らばった 令嬢たちのプロフィールを集めて
手に取った。あぁ、やっぱりセリィローズが候補の一番 なんだな。

「この書類は返す。
 少し、一人になりたい。」
「フランチェスコ王子!」

「さ が れ。」

静かにゆっくりと つぶやく。
言葉に少し魔力を乗せる。
言葉に魔力を乗せると、威圧されるんだよな。

ジゼは、少し顔色を変えた。
ふ。ジゼのこんな顔を見るのは 珍しいな。

「騎士ビラットも下がれ。
 扉の外の騎士タイラーも。
 あぁ、リィアにも お茶はいらぬと伝えよ。」

いつもは、指示した後は
印象が柔らかくなるように笑うんだけど・・・
俺は、意識して、無表情で皆に伝える。


「聞こえなかったか? 下がれ。」

ぴりっと 空気が冷たくなる。

皆が ちょっと困ったように 一礼して

ぱたん。と静かに扉が閉まる。

きゅいぃん。と 結界が走る。あ、騎士ビラットらしいな。
守るような、籠のような、檻のような・・・強い結界。

俺は、少し笑って覚悟を決めた。
そう、「フランチェスコ王子」を捨てる 皆を 裏切る覚悟を。

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