王子は冒険者になる!



***



・・・で、魔力を展開。
これで良し。と

「はい、学園の結界の穴をふさいだよ。」
「見事だな、フラン。
 この部屋はサントスが張り直した。」

アレク兄さんが にこり、と優しく笑った。

軽いノックのあと青頭のサントスが入ってきた。

「学園には、魔法の練習中に空に 穴をあけたので修復した。
 と伝えました。当直の講師しかいなかったので
 詳細は気づかれないので大丈夫でしょう。」

「うん。ご苦労、サントス。」

おー、よかった。
アレク兄様のとこまで『飛んだ』のはよかったけど
学園の寮に張ってある結界に
穴をあけてこの部屋まで『移転』したから
誤魔化し切れるか、不安だったんだよな。

さすが、兄様の側近だな。
仕事も早い。




「あ、青・・・じゃない、サントス。
 いてもらってもいいから 睨むなって。
 別にアレク兄様に敵意もないし、攻撃もしないから。」

頭を下げて、下がろうとする兄の従者に声をかける。
え?と顔を上げた青頭。俺が にやり、と笑うと、青頭のサントスは 引きつったように顔をゆがめて、向かいに座っているアレク兄様の隣後ろにすっと立つ。座ればいいのに。って立場上、無理だろうな。

「・・・学園の寮の部屋って 意外と広いんだね。」
「あぁ、ココは一番広い部屋だからな。」

シンプルな作りで装飾も控えめだが
奥に寝室、反対側に従者用の部屋、で 今ソファに座る部屋。
まさかの2LDK。さすが「王子」っすね。

「で?こんな夜に 兄を訪ねてくるなんて何があったんだい?
 しかも、王宮の結界を『壊した』って・・・何をしたの?」
「うーん。そうだなぁ。
 アレク兄さんは俺の夢、知ってるだろ?」

「あぁ、自由に『冒険者』になりたい。だろ?」
「うん。だから、逃げようと思って。」

「「は?」」


ふたりの声が ハモッた。

「あ、だから、」
「ちがう、フラン。逃げたって・・・逃げたのか?
 あの、王宮から?
 あの、騎士ビラットの結界とか 『アロー』の警護から?」

「アローって誰?」
「あぁ、フランは知らないか。」

まぁいいか。

「うん。逃げたよ。 
 騎士ビラットの結界はすごいけど 毎日 何度も解除の仕方を見てると
 さすがに俺でも覚えるって。」



魔力のつなぎ目に、魔力を反転させてつぎ込む。三か所。
あ、これ 一応トップシークレットな。
騎士ビラットと、タイラー あとジゼしか知らないことだから。

部屋の結界はこれで解除して、そっと部屋を出る。
窓を開けて そこから中庭へと飛び降りる。
もちろん「浮遊」をかけてふんわり降りる。よし、気づかれていない。

あたりは、じんわり暗くなっている。
あー、ディナーを食べてから逃げればよかったかなぁ。

早くも後悔。
中庭の薬草畑に急ぐ。

途中 巡回の騎士に見つかりそうになりながら
中庭へ・・・。
いつものように、赤いフードをすっぽりかぶったウルーチェ先生がいた。

「・・・あら、フラン王子。意外と速かったのねぇ。
 ほーら。選別ですよ。受け取りなさいな。」
「何も言ってないのに、よくわかりましたね。」

しかも、飛び出すと決めたのはさっきだし。

ウルーチェ先生は 楽しそうに笑って「年の功です」と言った。
魔力の回復薬の小瓶と、いくつかの薬草をウルーチェ先生は
つめて袋に入れて俺に渡した。

「あ、そうだ。王子、この子を貸してあげましょうかねぇ。」
「ウルーチェ先生・・・俺の心でも読めるんですか?」

ウルーチェ先生は楽しそうに笑って「年の功です。」と言った。

「この借りは そうですねぇ。
 おいしい異国のお菓子で構いません。」

にっこり笑うウルーチェ先生に 笑顔でお礼をいった。
かなわないなぁ。もう、いろいろ バレてるし。

ウルーチェ先生に渡されたのは 真っ赤なインコみたいな鳥。
先生の魔力を与えたので真っ赤に染まったそうだ。
ネズミとか、鳥とか適当に捕まえようと思っていたから助かる!
急いで、奥の庭に行かなくては・・・見つからないようについたのは
海の見える庭・・・俺の一番好きな花壇のある 庭だ。
花壇の端の土を掘り起こす。
隠してあった 金といくつかの武器。腰にぎゅっと巻き付ける。

えぇと、あとは・・・
そうそう、ココ、結界がすこーしだけ 破れているんだよ。
操作には自信がないけど
壊すだけなら・・・力こめるだけだしな。
ぎゅぅっと力をこめて、その結界のほころびに『雷の攻撃』を打ち付ける

どぉおおおおぉぉん

ものすごい音が響いて・・・よしっ。
ようやく人ひとりが通れる大きさに結界が裂ける。

って、急げ。結界はゴムのように元に戻ろうとする性質があるからな。

無理やりその穴を通り抜ける。ん、キッツいっ。
ビリっと服が破れて、あちこちに擦り傷ができるが、気にしてる場合じゃない。

ずさぁぁあ、っと
やや崖になっている外に降りる。っと、バランス崩すと
海に落ちる・・気をつけねば。


急いで 騎士タイラーに作ってもらった『変身できるヒモ』をウルーチェ先生のインコに軽く巻き付ける。俺の魔力も通す。これで・・・騙されてくれるはずだ。インコを空に向かって放つ。

俺の魔力が飛び立つのがわかる。

急いで腰につけた袋から『魔石』を取り出す。
いわゆる魔力の『充電池』だ。
えぇと、三個で魔力足りるかなー。
学園の結界・・・破れるかな・・・。
大きいとっておきの魔石を握りしめながら
準備していた 魔法陣の書いた 紙も取り出してその上に魔石を乗せる。
そして自分自身の魔力をそれに注ぐ。

ぽわん、と一瞬光って、俺はその場を後にした。




「それで、アレク兄さんの所に移転したんだ。」

学園の移転ポイントじゃないから
結界に穴を空けて、侵入って形になったんだけどさ。
マジ一人分滑り込めるくらいの穴が開いてマジでよかった。
跳ね返されてたら 兄さんに何も告げず消えるとこだったからな。

「でも・・・フラン。なぜ?
 君と、学園で学べると思っていたのに・・」

「・・・がっかりさせてごめん。アレク兄様。
 学びたかったんだけどさ・・・。」

「・・・・・・・・
 ------っ。 いくんだな。」

長い沈黙の後、
絞り出すようにアレク兄様がつぶやく。
心が痛む。

あぁ、これは俺の『罪』だ。
すべての責任を 兄に押し付けて自由になろうとしている。

「サントス。ハサミを貸して。」

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