あなたと私と嘘と愛
『輝くリップで彼の視線を独り占め。
奪いたくなるような濡れた色とツヤ感で彼を虜にしよう。』
というキャッチフレーズの口紅を塗ったあと、私は急いで改札口の外へ出た。
案外満更でもない気分だった。
艶やかになった口元を緩めながら、少し早くついちゃったかな?と思ったけれど、意外にも坂井さんはもう待ち合わせの場所に立っていた。
「あ、月島さんこっちです」
「わ、こんにちは。坂井さん早いですね」
彼の側に駆け寄ると緊張が込み上げる。
今日の彼も素敵だ、と思ってしまった。
ふわっと笑った顔が直視できない。
彼に対しての恋心に気づいてから私の心臓は速くなる率が3割り増しだ。
つい最近まで彼はただの患者さんだった。なのにこんな短時間でまるで違う関係。
人生というのはいつどんな転機があるか分からない。
改めてそう実感する。
「会えて嬉しいです。今日の月島さんも素敵ですね」
「や、そんな…」
また鼓動が速くなる。
社交辞令だとは分かっていてもやっぱり照れてしまう。
彼の恥ずかしげもなく放たれる言葉は私をたじたじにさせる。どう返したらいいのか分からない。