初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 屋敷に帰ったアントニウスは絶望に任せてブランデーを煽った。
 あの傷つき、家の名誉と姉の幸せの為にアントニウスに身を差し出そうとするアレクサンドラの姿が目に焼き付き、アントニウスは自分の目を抉り出したいとさえ思った。
「ロベルト殿下より、お手紙が届いております」
 執事のミケーレが差し出す手紙をグラス片手に開くと『アレクサンドラ嬢と話はできたのか? こっちは、ジャスティーヌに怪しまれて困ったぞ』と書かれていた。
 危ないところだった。もし、馬車で訪ねていたら、伯爵の許可も取らずに夜分アントニウスがアレクサンドラを訪問するなどと言う、世間体も外聞も悪い行為を行ったことがジャスティーヌにも知られてしまうところだった。もし、そんなことが知れれば、きっとジャスティーヌ嬢はロベルトを許さず、二人の仲まで危機に晒してしまうところだったと、アントニウスは考えながら再びブランデーを煽った。
 あそこまで頑なにアントニウスの言葉を聞いてくれないアレクサンドラに、どれ程正直に想いを伝えたとしても、アレクサンドラはそれを単なる演技としか思ってくれないに違いないと、思えば更にブランデーのグラスが空になった。
 いっそ、このまま酔いつぶれ、ブランデーに飲まれてアレクサンドラの事を忘れられたらと、アントニウスは思った。愛する人に愛されるどころか、愛の言葉も挨拶のようにしか思ってもらえない現状に、アントニウスは浴びるほどにブランデーを飲み続け、気遣う執事も、屋敷勤めの使用人達を下がらせ、最後はブランデーのボトルを片手にベッドの上に倒れこむようにして眠りに落ちた。
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