初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 早い帰りを父王に知られたくなくて東門から春宮殿に馬車をつけさせたというのに、ロベルトの気持ちも知らず、父王は再び共も殆ど連れずに親子の語らいと称してロベルトの部屋へと乗り込んで来た。
「ずいぶん早い帰りだが、アレクサンドラ嬢との舞踏会はどうであった?」
 その興味津々の言葉を王太子付き侍従長が間の抜けたような緊張感も期待も感情もない平坦な言葉にしてロベルトの耳元で囁く。
 余りの鬱陶しさにロベルトは声を荒立てそうになるのを必死で堪えた。
「で、どうだったんだ!?」
 せっつくような父王と、耳元で囁く侍従長の平坦な言葉にロベルトの神経は逆撫でされ、ロベルトはギリリと手を握りしめた。
「今宵は、もう下がれ」
 ロベルトが手で合図すると、侍従長は仕方なく下がっていき、ロベルトの私室には父と息子の二人きりとなった。
「で、どうだったんだ!」
 血圧があがったのか、父の声はトーンを上げた。
「そんなに怒鳴らなくても聞こえています!」
 ロベルトも声を上げた。
「父上には申し訳ありませんが、こんな恥をかいたのは初めてです」
 ロベルトの言葉に父王はゴクリと次の言葉を飲み込んだ。
 どんな事情であれ、相手が誰であれ、愛する息子に恥をかかせたとあっては、許すわけにはいかない。
 ロベルトが口を開くのが一瞬遅ければ、国王はアーチボルト伯爵家に勅使を送るところだった。
「ダンスを踊り、四阿で口付けたら、走って逃げ出し、横になって休んでいるからと、あの小憎たらしいアレクシスに、客間の中程から近寄らせてもらえず、アレクサンドラ嬢には別れの挨拶も出来ないまま部屋から追い出され、僕が公爵夫人と話している間に帰ってしまったんですよ。ひどい侮辱です。もし、彼女がジャスティーヌの妹ではなく、アレクシスがジャスティーヌの従兄妹でなかったら、ただではすませませんよ。今宵の相手がジャスティーヌだったらと、考えずにはいられませんよ。もし、彼女だったら、こんな無様な姿では帰ってきません」
 感情にまかせて本心をぶちまけたロベルトに、父王はまさかとロベルトのことを見つめた。
「どうせ父上には関係ないでしょうが、これ以上、僕の事に余計なチャチャを入れないでください」
 ロベルトは言うと、視線で父に出て行ってくれるようにと意思表示をした。父王は『まさか、ロベルトの本命はジャスティーヌだったのか?』と、問い質すこともできないまま、仕方なくロベルトの部屋を後にした。
 残されたロベルトは、腹立たしさと、ジャスティーヌに軽蔑されたのではという思いでモヤモヤしたまま着替えの間に入ると、呼び鈴の紐を引いて侍従たちを呼び戻した。

☆☆☆

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