初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
なんとか馬から滑り落ちず、さらに言えば、アレクサンドラの注文通り必要以上にロベルトにも抱き着かずに目的地に辿りついたジャスティーヌは、まさかアレクサンドラが大ピンチに落ち言っているとも知らず、激しい吐き気を必死に堪えながら後から来た馬車に乗っていたロベルトの従者たちが設営したテントの中で椅子の背にもたれて休んでいた。
「まったくアントニウスときたら、まるで女性の尻を追いかけるようにアレクシスにまとわりついて、酷い目にあわされていないと良いが」
ロベルトの言葉に、ジャスティーヌの吐き気は一瞬のうちに吹き飛んだ。
(・・・・・・・・あれだけしっかりしているアレクサンドラの正体を知られているはずはないと思うけれど、確かに、自己紹介の後からずっとアレクサンドラの事を目で追っていた気がする。しかも、かなり情熱的な瞳で・・・・・・・・)
「そんなに、アントニウス様はアレクシスにご執心ですの?」
ジャスティーヌの問いに、ロベルトが不服そうな顔をした。
「まったく、あなたの唇は罪な唇だ。私以外の男の名を軽々しく呼ぶなんて・・・・・・」
ロベルトの手がジャスティーヌの頤に触れ、唇が触れ合うのではないかというほど顔が近づいてくる。
無意識のうちに、いつものように軽い王子を演じてしまったロベルトは、心の中で『しまった!』と舌打ちをしていた。
つい先日、同じように嫌われる作戦を慣行して失敗したというのに、今度は軽い男を演じても、ますますジャスティーヌに嫌われることがあっても、好かれることはない。それに、アレクサンドラに親しく接すれば接するほど、ジャスティーヌの『アレクサンドラ本命説』を覆すことができなくなってくる。
しかし、先日は舞踏会という事もあり、暗い中で半分ベールで顔を隠していたアレクサンドラは、確かにジャスティーヌとは別人のように感じたが、明るい日の光の下で見るアレクサンドラは、どう見てもジャスティーヌで、相手がジャスティーヌではないかと見間違えば見間違うほど、口説き文句が口から飛び出しそうになるので、どうしてもロベルトは軽い男のフリしかできなくなって困っていた。
しかし、よく考えて見れば、アレクサンドラとジャスティーヌは双子なのだから、見間違うほど似ていてもおかしくない。
そう思うと、今朝のアレクシスは、まるでジャスティーヌの男版のようにも見えた。
(・・・・・・・・いけない、アントニウスの広すぎる嗜好に頭が毒されてきた・・・・・・・・)
ロベルトは口付ける寸でのところで行動を制御しなおすと、するりと体を反転させて距離を取った。
「ですが殿下、殿下の他には、殿方しかおりませんのよ」
ジャスティーヌの言葉に、ロベルトが今度は不服そうな表情を浮かべて振り向いた。
「私だけ殿下で、皆は名前で呼ばれるのは不公平ではないですか?」
言ってしまってから、ロベルトは言う相手はジャスティーヌであるべきなのに、アレクサンドラ相手に嫉妬してどうするんだと、思わず奥歯を噛みしめた。
しかし、音楽も人々の賑わい物ない草原のテントの中で聞くアレクサンドラの声は、ジャスティーヌそのものだった。
「ですが、殿下は殿下ですわ」
答えながら、ジャスティーヌは自分がいつもの声で話してしまったことに気付いた。
本来ならば、もう少し低い声で、アレクサンドラに似せて話さなくてはいけないのに。
「・・・・・・のどの調子が・・・・・・」
わざと咳き込みながら、ジャスティーヌは必死に声を下げた。
「殿下を殿下以外、なんとお呼びすればよろしいのですか?」
少し低めの声は、やはりジャスティーヌの声とは違うと、ロベルトは認識を改めた。
「あ、いや、殿下でかまわない。あなたには、私をそれ以外の方法で呼ぶ気がないと見える」
そっけなく言ったつもりだったが、なぜか声は優男のひがみのように聞こえるトーンになってしまった。
(・・・・・・・・何をしているんだアントニウスは。間が持たないじゃないか・・・・・・・・)
「私は二人を探してきます」
ロベルトは言うと、テントを後にした。
☆☆☆
「まったくアントニウスときたら、まるで女性の尻を追いかけるようにアレクシスにまとわりついて、酷い目にあわされていないと良いが」
ロベルトの言葉に、ジャスティーヌの吐き気は一瞬のうちに吹き飛んだ。
(・・・・・・・・あれだけしっかりしているアレクサンドラの正体を知られているはずはないと思うけれど、確かに、自己紹介の後からずっとアレクサンドラの事を目で追っていた気がする。しかも、かなり情熱的な瞳で・・・・・・・・)
「そんなに、アントニウス様はアレクシスにご執心ですの?」
ジャスティーヌの問いに、ロベルトが不服そうな顔をした。
「まったく、あなたの唇は罪な唇だ。私以外の男の名を軽々しく呼ぶなんて・・・・・・」
ロベルトの手がジャスティーヌの頤に触れ、唇が触れ合うのではないかというほど顔が近づいてくる。
無意識のうちに、いつものように軽い王子を演じてしまったロベルトは、心の中で『しまった!』と舌打ちをしていた。
つい先日、同じように嫌われる作戦を慣行して失敗したというのに、今度は軽い男を演じても、ますますジャスティーヌに嫌われることがあっても、好かれることはない。それに、アレクサンドラに親しく接すれば接するほど、ジャスティーヌの『アレクサンドラ本命説』を覆すことができなくなってくる。
しかし、先日は舞踏会という事もあり、暗い中で半分ベールで顔を隠していたアレクサンドラは、確かにジャスティーヌとは別人のように感じたが、明るい日の光の下で見るアレクサンドラは、どう見てもジャスティーヌで、相手がジャスティーヌではないかと見間違えば見間違うほど、口説き文句が口から飛び出しそうになるので、どうしてもロベルトは軽い男のフリしかできなくなって困っていた。
しかし、よく考えて見れば、アレクサンドラとジャスティーヌは双子なのだから、見間違うほど似ていてもおかしくない。
そう思うと、今朝のアレクシスは、まるでジャスティーヌの男版のようにも見えた。
(・・・・・・・・いけない、アントニウスの広すぎる嗜好に頭が毒されてきた・・・・・・・・)
ロベルトは口付ける寸でのところで行動を制御しなおすと、するりと体を反転させて距離を取った。
「ですが殿下、殿下の他には、殿方しかおりませんのよ」
ジャスティーヌの言葉に、ロベルトが今度は不服そうな表情を浮かべて振り向いた。
「私だけ殿下で、皆は名前で呼ばれるのは不公平ではないですか?」
言ってしまってから、ロベルトは言う相手はジャスティーヌであるべきなのに、アレクサンドラ相手に嫉妬してどうするんだと、思わず奥歯を噛みしめた。
しかし、音楽も人々の賑わい物ない草原のテントの中で聞くアレクサンドラの声は、ジャスティーヌそのものだった。
「ですが、殿下は殿下ですわ」
答えながら、ジャスティーヌは自分がいつもの声で話してしまったことに気付いた。
本来ならば、もう少し低い声で、アレクサンドラに似せて話さなくてはいけないのに。
「・・・・・・のどの調子が・・・・・・」
わざと咳き込みながら、ジャスティーヌは必死に声を下げた。
「殿下を殿下以外、なんとお呼びすればよろしいのですか?」
少し低めの声は、やはりジャスティーヌの声とは違うと、ロベルトは認識を改めた。
「あ、いや、殿下でかまわない。あなたには、私をそれ以外の方法で呼ぶ気がないと見える」
そっけなく言ったつもりだったが、なぜか声は優男のひがみのように聞こえるトーンになってしまった。
(・・・・・・・・何をしているんだアントニウスは。間が持たないじゃないか・・・・・・・・)
「私は二人を探してきます」
ロベルトは言うと、テントを後にした。
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