月夜の砂漠に紅葉ひとひら~出会ったのは砂漠の国の王子様~
夢か現実か
社員旅行の前日。

まだ私は、実感が湧かないまま出張の準備をしていた。

「紅葉。旅行の準備、できたの?」

母親が皿洗いをしながら、聞いてきた。

「うん。一通りは。」

「じゃあ、お餞別あげなきゃね。」

手を洗いながら、母親は財布から一万円を出した。

「わお。太っ腹‼」

感激しながら両手を出すと、母親は手をバチっと叩いた。

「その代わり、ちゃんとお土産。買ってくるんだよ。」

「わかってます!」

母親から万札を受けとると、頭を下げた。


「俺、八ツ橋がいい。」

お風呂から出てきた弟が、いつの間にか居間にいた。

「八ツ橋?」

「知らねえの?京都の名物。」

5歳も下なのに、その言い方に腹が立つ。

「お母さん、千枚漬けね。」

「千枚漬け!?」

すると母親は、じっとこちらを見ながら言った。

「あら、知らないの?京都の名物。」


弟の生意気な口調は、絶対母親譲りだと思った。
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