替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする




「……あれだ。」

小高い丘の上から、マリウスさんは眼下の町を指さした。
マリウスさんはとても晴れやかな顔をしている。
親友と会うのが、そんなに嬉しいのだろうか?
その顔を見ていたら、ちょっとした不快感を感じてしまった。
マリウスさんが悪いわけではないのだけれど…



「さ、急ごう!」

マリウスさんの軽やかな足取りとは裏腹に、私の歩みは心同様、重かった。
マリウスさんはそんなことなんか、気付いてはいないだろうけど…



「こっちだ!」

マリウスさんは、おそらくこの町に来たことがあるようで、全く躊躇うことなく進んで行った。
靴屋の角を入ったところで、マリウスさんは急に走り出した。
そして、一軒の家に向かい、その扉を力強く叩いた。



「アンセル、俺だ!」

マリウスさんは扉を叩くけど、返事はない。
何度か同じことを繰り返し、ようやくマリウスさんはその動作をやめた。



「……残念ながらいないみたいだな。」

マリウスさんは扉の前に腰を降ろした。
期待が大きかっただけに、がっかりしたのかもしれない。
私は、その場に立ち尽くしていた。



「アンセルさんなら引っ越したよ。」

通りすがりの中年女性が、私達に声をかけた。
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