大天使に聖なる口づけを
「エミリア」
ふいに名前を呼ばれた。

ふり返ると真っ直ぐにアウレディオがエミリアを見つめていた。
「大丈夫だ。大丈夫だから、お前のやりたいようにしろ」

「ディオ……」
『何が大丈夫なのよ、無責任なこと言わないで!』といつものように声を大にして怒りたかったが、声が出なかった。

自分を見つめる蒼い瞳のあまりの優しさに、喉が詰まって上手くしゃべれない。
「ディオ……」

情けなく名前を呼ぶしかないエミリアに、アウレディオが少し眉を下げて小さく笑いかける。
(まったく困った奴だな)とでも言いたげなその表情に、不思議とエミリアの心が温まった。
最初から無理だと諦めずに、せいいっぱい努力してみようと思えるだけの勇気が湧いた。

「私……やってみます。できるかどうかわからないけど、せいいっぱいやってみます」
拳をぎゅっと握り直して、エミリアは宣言した。

息を詰めるようにしてエミリアの返事を待っていたフェルナンド王子の顔も、ようやく綻ぶ。
「ありがとう。本当にありがとう」

両手を大きく広げてその中にすっぽりと抱きしめられたことで、エミリアはこれまでようやく保っていた意識を泣く泣く手放した。

(せっかくフェルナンド様が抱きしめて下さったのに!)

そんなことを悔しく思う間もなかった。


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