大天使に聖なる口づけを
「背中に星型の痣があるっていうのも?」
「うん。本当……」

母の大きな宝石のような瞳が、何かの色に揺れた。

ふうっともう一度大きなため息を吐くと、何かを吹っ切るように首を振って、アウレディオはエミリアに問いかけた。
「お前……まだ他にも好きな奴がいるか?」

「は?」
一瞬呆けてしまったエミリアに、アウレディオは少し苛立たしげに眉を寄せる。

「ランドルフ様とフェルナンド王子の他にも、まだ好きな奴がいるのかって聞いてるんだよ」

エミリアは母のニコニコ顔を見ながら、焦ってアウレディオに詰め寄った。
「な、な、何てこと言うのよ!」

(知らない人が聞いたら、どんなに恋多き女なのかって思うでしょ!)

それ以上余計なことを言われたらたまらないので、
「いないわよ。いるわけないでしょ!」
慌てて叫んだ。

「そうか。だったらやっぱりそういうことか……」
一人で何か納得したらしいアウレディオに

「何が?」
といくら尋ねてみても、

「これでいいってことだよ」
と手に持った白い封筒をヒラヒラと顔の前で振ってみせるだけ。

(何がいいのよ。全然意味がわからない)

納得がいかないエミリアの肩をポンと叩いて、アウレディオは自分の家に向かって歩き始めた。

「ちょちょっと、ディオ!」
エミリアの声にはふり返りもしないで、

「明日になればわかる」
背中越しに手を振って行ってしまう。

(いいえ、全然わかるとは思えないんですけど!)

納まらない気持ちを抱えたまま、エミリアは母と共に家に帰った。
キラキラと降るような星が、とても綺麗な夜だった。


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