大天使に聖なる口づけを
(でももうミカエルを捜そうにも手がかりがない……私がその人を好きになるはずだっていうんなら、ランドルフ様もフェルナンド様も違った今、まったくの八方塞がり……)

絶望的な状況に落ちこむしかないエミリアの顔を、母が、
「どうしたの?」
とのぞきこむ。

「なんでもないよ」
笑ってごまかそうとしても、母にはきっと通用しない。
黙ったままエミリアの頭を撫でると、母はアウレディオに一通の手紙をさし出した。

「はいアウレディオ。お手紙届いてたわよ。配達の人がさまちがえてうちに届けちゃったのね。ごめんなさいね」
「別にリリーナのせいじゃないだろ」

何の変哲もない白い封筒を、アウレディオは宛名が自分の名前になっていることを確認して裏返した。
裏に差出人の名前がなかったのでそのまま封を切る。
白い便箋に目を落としたアウレディオの顔は、見る見るうちに表情が変わっていった。

「ねえ誰から?」
尋ねるエミリアには答えをくれない。
けれどエミリアの顔と手紙とを何度も何度も見比べて、何かを必死に考えこんでいる。

「私の知ってる人?」
しつこく食い下がるエミリアをこまったく無視して、アウレディオは母に向き直った。

「なあリリーナ。俺たちが捜してる相手にエミリアが恋するって話は、絶対に本当なのか?」
「本当よ」
間髪入れずに帰ってくる母の声に迷いはない。

アウレディオはなぜか大きなため息を吐くと、肩を竦めてみせた。

エミリアにはまったく意味がわからないというのに、母はそうでもないらしい。
アウレディオの不可解な行動に、動じもせず彼を見つめている。
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