大天使に聖なる口づけを

家に帰り、持ち帰った仕事をしていても、母の手伝いをして夕食の準備をしていても、ともすれば涙が零れ落ちそうだった。

母に余計な心配をかけないように、せいいっぱい元気なふりをしながら、エミリアは、
(そういえば、私っていつもこうだ……)
と気がついた。

周りに心配をかけたくないから。
可哀想だなんて思われたくないから。
せいいっぱい肩肘を張って生きてきた。

(そんな私が笑ったり怒ったり……いつだって本当の感情をぶつけられる相手がディオだったんだ……)
考えるとまた泣きだしそうになってしまうので、エミリアは慌てて首を振った。

もう泣かないと決めた。
アウレディオはエミリアがどんなに止めても、絶対に自分で決めたことをやり通す。
エミリアは誰よりもそのことをよく知っている。

だからアウレディオはアウレディオのやりたいようにすればいい。
エミリアもエミリアのやりたいようにする。

凄い形相で野菜を切っていたエミリアに、母がふんわりとした笑顔で声をかけた。
「エミリア。そろそろアウレディオを呼んできたら?」

エミリアは、「うん」と頷いてエプロンを外し、母に向き直った。
大きく息を吸いこんで、あらかじめ用意していたセリフを口にする。
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