大天使に聖なる口づけを
「お母さん……私ミカエルを見つけたから……だからこれから本当の姿に戻してくるね」

母は翠色の瞳をこれ以上はないほど見開いて、みるみる大粒の涙を浮かべた。
「エミリア……それって……」

それ以上出てこない母の言葉を汲み、エミリアはしっかりと頷く。

「うん。ディオは頑固ものだから、絶対に気持ちを変えない。自分一人がいなくなれば、それでいいんだって思ってる」

母はただうんうんと頷くことしかできないようだった。

エミリアは懸命に、自分の本当の気持ちを語った。
「でも私は嫌だから……私だってディオに負けないくらい頑固だから、どうにかがんばってくるね。お母さんだって決して諦めずに、何年もかかってお父さんのところに帰ってきたんだもんね。私だってお母さんの娘だもん……!」

母は首が千切れんばかりに頷いてくれる。

「じゃあ行ってくるね」
背を向けたエミリアに、母はやっとの思いで、かすれた声を絞り出した。

「ごめんね。エミリア……ごめんね……」
優しい優しい声だった。

エミリアはいつもアウレディオがそうするように、母のほうをふり向かないでうしろろ手に手を振った。
泣きそうな顔を母に見られたくなくてそうしたのだったが、意地っ張りなアウレディオがいつもそうやっていた理由も、同じではなかったのかとふと思いいたる。

(本当に、格好つけたがりなんだから……)

もうすぐ失ってしまうという今になって、アウレディオの仕草、言葉、姿、これまで一緒に生きてきた年月、その全てがエミリアには愛しかった。

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