大天使に聖なる口づけを
「それで……私の七歳の誕生日に、突然いなくなっちゃったんだね……」
今度ばかりはアウレディオも、エミリアが母の話に口を挟むのを邪魔はしなかった。

「ごめんね、びっくりしたでしょう……? お父さんとは、いつかそんな日が来るかもしれないねって話してたんだけど、エミリアはなんにも知らなかったんだもんね……」

あの日の悲しい気持ちがありありと胸に甦ってきて、思わずまた泣き出してしまいそうになるのを、エミリアは必死に我慢した。

「エミリア、がんばったわね……遠くからだけど、お母さんずーっと見てた。エミリアのことだったら、なんだって知ってるわ。でもね、お母さんもがんばったの。なんとか人間界に帰れるように必死にお願いしたの。十年もかかっちゃったけどね……」

「それで? お母さん、今度こそここで一緒に暮らせるの? もうずっとこっちに居られるの?」
飛びつくようなエミリアの問いかけに、母の翠の瞳が一瞬揺らいだ。
苦しそうに眉根を寄せ、静かに首を横に振る。

「ううん。私が今回人間界に来たのは十五年前のお仕事の続きなの。今度こそは絶対に成功させないといけない……その結果次第では、ひょっとするとずっとこっちにいられるかもしれないけど……でもそしたら……」

母の話はまだ続いているようだったが、エミリアの耳にはすでに聞こえていなかった。
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