大天使に聖なる口づけを
昨日あれから、楽しい午後のティータイムに母がしてくれた話は、思わずエミリアが悲鳴をあげずにいられないような内容だった。

「一口に天使と言っても、その数は人間ほども多くて、いろんな階級にわかれているの。
特に能力に優れていて、神様の近くに仕えることを許されているのが大天使。
天使を束ねる立場の人たちね。
主な大天使は七人いるけれども、中でも有力なのが四方を受け持つ四大天使――ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル。
この四人は遥かな昔から、地位と役割をその名と共に、子から孫へと受け継いできた。
でもその中の一人――ミカエルの後継者が十七年前に行方不明になってしまったの。
どうやら人間界に落ちてしまったというところまではわかっているんだけど、どこにいるのか、今どんな姿になっているのかも全然わからない……」

母の話を、まるでお伽噺でも聞くように何気なく聞き流していたエミリアは、「十七年前」という言葉に、半分閉じかけていた目をパチッと見開いた。

「お母さん! もしかして十七年前に、その『ミカエルの後継者』とやらを捜しに、人間界に来たの?」

いかにも興味なさげな娘の態度を、内心心配に思っていたらしい母は、エミリアからの質問に、心底ホッとしたように微笑んだ。
「そう! そうなの! それがお母さんの仕事だったの!」

「だけど失敗したってことは、その時は見つからなかったってことだな?」

それまで黙って話を聞いているだけだったアウレディオが口を開いたのも、よほど嬉しかったらしい。
母はブンブンと音が鳴るほどに激しく首を縦に振りながら、ご機嫌で答える。

「そう! それで今回また捜すことになったんでーす」

語尾を伸ばすほどに上機嫌なのは良かったが、エミリアにはどうしても腑に落ちないことがあった。
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